HISTRIP(ヒストリップ)|歴史的建造物に泊まろう

HISTRIP MAGAZINE icon HISTRIP MAGAZINE

迷宮を彷徨い発見!金沢「卯辰山山麓寺院群」の穴場スポットは住宅街

  • 石川県金沢のひがし茶屋街の3歩先にある、50を超える寺院がひしめき合う「卯辰山山麓寺院群」。
    山麓には寺院があるだけではなく、数多くの住宅に今なおそこで暮らす人々がいました。

    「荘厳な寺院とそこで暮らす人々の日常」
    相容れないような二つが自然と共存する、この地独特の雰囲気は長年かけて培ったもの。
    今回はそんな今までにない、新しい寺巡りを紹介します。

     

    昭和レトロな住宅街と加賀藩ゆかりの寺が共存 金沢の穴場「東山二丁目」

    ひがし茶屋街を少し北へ外れた狭い狭い道の先には、閑静な住宅街が広がります。しかし普通の住宅街とは一味違います。
    <01_alt:曲がりくねる、細い細い路地の住宅街>
    城下町の跡が至る所に残るこちらの道は人が一人通れる程。クランク状の道が迷路のように入り組みます。攻略できるのは、地元の方だけじゃないのか!と思ってしまうほどでした。

    そんな迷宮をひがし茶屋街から北へ5分ほど突き進むと、少しレトロな、昭和の薫り漂う住宅地へたどり着きます。エプロンをつけたご近所さんらの井戸端会議、酒屋さんにたばこ屋さん。懐かしき町屋の風景が広がるこの地には、驚くほどにお寺も密集していました。
    <02_alt:昔懐かしき、レトロな町の風景>
    歩いて3分、50メートルほどの距離になんとお寺が4つ!来教寺、本蔵寺、永久寺、西養寺…。どの寺院も個性が光り、私はこの50メートルに一時間以上を費やしてしまいました。ちょうど夕方頃には、本蔵寺からたくさんの子供たちが出てきました。どうやらこの町ではお寺で子供も預かっているようです。

    こちらの「東山二丁目」では今を生きる加賀百万石、息づく文化を感じることができました。ぜひ、ひがし茶屋街を訪ねた際には少し奥まで探索して、生活の中に生きる歴史にも触れてみて欲しいと思います。

     

    当たる寺占いは必見!神社様式の一風変わった金沢の寺院 「来教寺」

    <03_alt:黒光りの瓦が印象的な正面から見た来教寺>
    そんな「東山二丁目」の中でもひときわ目を惹くお寺は、380年近くの歴史を誇る来教寺。立派な黒瓦で覆われ、中の様子は見えませんが、少しだけ大仏様が飛び出ている様子は好奇心を掻き立てます。
    門をくぐると、見渡す限りの緑、、緑。立派な木々が所狭しとそびえ立っています。
    <04_alt:神社っぽい来教寺への入り口>
    <05_alt:境内>
    本殿の左手には先ほど気になっていた大仏様が鎮座、その奥には神社のような建物が続いていました。実は、この来教寺は寺院には珍しい神社様式。左手の内陣は金毘羅大権現が、右手の内陣は阿弥陀仏が祀られているそうです。

    <06_alt:ありがた~い六体のお地蔵さまは静かに微笑む>
    大仏様の先へ進むと、静かに微笑む六体のお地蔵さまがお出迎えです。こちらの六地蔵菩薩には学問向上・開運出世・病気平癒などご利益は盛りだくさんです。お地蔵さまも関係していたのか、来教寺は藩政期より幕末まで、藩の許可を得た富籤(とみくじ)のお寺でもありました。江戸庶民に愛された富籤は今でいう宝くじのようなものです。その名残を受け今でもこちらの観相御籤(にんそうおみくじ)は評判で、中を訪ねれば住職さん自らが占ってくださります。

    金毘羅さまと阿弥陀仏、お地蔵さま、様々なご利益がつまった来教寺は隠れたパワースポット。ぜひ、こちらで自分の運試しと、ありがた~いお話を伺いに訪れてみませんか。

     

    急な石段の先にある金澤別世界 文化財まみれの隠れた名寺「西養寺」

    <07_alt:住宅街に潜む長い石段、その先には西養寺>
    来教寺を左手にまっすぐ進むと、数十段ほどの石段が目に入ってきます。その上にあるのは住宅街のレトロな雰囲気とは一線を画し、ピーンと空気が澄み渡る、広い広い寺院。卯辰山山麓寺院群の中でも特に私のお勧めスポット「西養寺」です。

    こちらは初代加賀藩主の前田利家と、最も長く深い「繋がり」を持つお寺。利家公は藩主になる以前からこの寺に帰依、彼が勢力を広め移住になる度に随従させ親しく奉仕をしました。それ以降前田家と切っても切り離せない、深い絆で結ばれるお寺となったのです。1612年(慶長17年)には金沢でも眺望絶景である今の地へ移転し、広い敷地を加賀藩前田家からいただました。

    <08_alt:鬱蒼とした木々に隠された本堂>
    市の保存樹林に指定される、緑深き庭園や木々を眺めながら奥へ進むと、風格漂う本堂へたどり着きます。こちらも市の文化財で、少しだけ木目の見える様子が歴史深さを語ってくれました。入母屋造に向唐破風(むかいがらはふう)の玄関を着けた意匠は全国でも稀少で、金沢の守っていくべき宝として大切にされています。

    <09_alt:市の文化財、そびえ立つ鐘楼>
    振り返って右手には、またもや文化財の鐘楼が。桟瓦(さんがわら)葺が立派なこの鐘は自由に上り、突くことができます。鐘の音はゴーンと重く低く、心に響くかのような音でした。

    見上げた先の彫刻にも目を奪われます。何百年たっても色あせずに残る、琵琶板の綺麗な木目や、細部までこだわり抜かれた彫刻は圧巻です。

    こちらの魅力いっぱい、加賀藩ゆかりの異世界で卯辰山山麓寺院群の寺巡りの仕上げとするのはいかがでしょうか。

     

     

    日常と非日常、絶妙なバランスを保つ「東山二丁目」の街並みを見に、一人で、はたまた歴史好きな仲間と、ちょっと散歩へ訪ねてみるのはいかがでしょう。
    この穴場スポットでいつもとは少し違った寺巡りをお楽しみください。